2024年(令和6年8月) 80号

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ほんとに毎日毎日が楽しいよ

 雅裕さんがテントの日陰で移虫を始めた。膝の上に置いた巣板の巣房から移虫針の先で幼虫を掬いとり、オレンジ色の人工王台にすばやく移す。20匹ほどの移虫はすぐに終わった。雅裕さんが行う移虫の様子を見つめていた養蜂仲間がテントの周辺に集まっている。巣鴨養蜂場の髙橋正利さん(67・「羽音に聴く」56号で既報)が自らに言い聞かせるように誰にともなく話す。「一人で(養蜂を)やっていると、気付きがないんだよね。他人の蜂を見ると、自分の蜂が分かるんだよね。(一人でやっている時は、ただ)一生懸命やるだけな。(蜜の)入りが悪いなと思うだけだよな」。皆が頷く。養蜂という仕事は、基本的に自然の中で蜂と向き合い自問自答している仕事である。こうやって養蜂家仲間が集まって四方山の話をするだけで、自らの刺激になり勉強会になっているのだ。

 簗場さんは移虫を終えた人工王台の巣枠を元の巣箱に戻した。10日ほど経ってから人工王台を取りに来て、新しく生まれてくるゴールデン種の女王蜂を成績の悪い旧王を1日前に取り去り入れ替えてやることになる。

 しばらくしてから電話で移虫の結果を尋ねると、簗場さんの返答は微妙だった。

 「うーん、なかなか上手くいかないですね。人工王台の蓋の横から穴を開けられていたり、旧王と入れ替えた新王を受け入れて貰えずに殺されたりしましたね。旧王を群から取り出すタイミングとの兼ね合いだったのかな、難しいです。でも大きい群で受け入れてくれた女王も居ますからね。まずまずかな」

 帰り道。軽ワゴン車の中で簗場さんが話し始めた。

 「蜂を飼い始めた頃、毎年、毎年、(失敗して)蜂を買っていたけど、蜂を止める方向にはいかなかったんだよね。それは遠心分離機があったからね。遠心分離機を手放す発想はなかったね。その結果として今日会っていた良い仲間とも出会っているから、蜂が楽しいというのもあるんですよ。君塚さんと村上さん、系統繁殖を何十年もやってきて、その結果として4段になってんだよ。高橋さんと『系統繁殖というのは、うちらには想像もつかないことで……』というような事を話していて……。ほんとに毎日毎日が楽しいよ」

 簗場さんが話し終わりの頃は呟くように小声で、運転しながら自らが描く楽しい世界に入り込んでいるようだった。

 昼食を済ませて簗場養蜂場に到着すると、簗場さんは休憩時間も取らずに昨日途中で止めた内検の続きを始めようとしている。「今日の内検の目的は王台が出来ているか、いないかを確認する作業ですね。分封をさせて蜂が居なくなってしまうと困るから、王台を取りまくっているからね。色々なパターンがあるけど、王が働き蜂に殺されていたりするので、そんなのを確認して、現在の群数を維持するようにしているんです。群数を増やすために割り出しはしないんですよ」。

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