蜂に余分な仕事をさせてしまった
純一さんが防腐剤のクレオソートを継ぎ箱に塗る
休憩時間になって純一さんが「もっと早くやっておけば良かったんですが……」と、円形になって死んでいた蜂について話し始めた。「蜂数に合わせて縮めておけば良かったけど、蜂数に合わないくらい産卵場所が広くなってしまっていたからですね。ぽかっとした陽気で2月に産卵を始めたけど、途中で寒波が来たりして、働き蜂が卵の世話をできずに冷えて死んでいる卵があったりして、蜂に余分な仕事をさせてしまったですね。3月末からは移虫が始まって、新しい女王蜂を誕生させますからね」
この2日間の作業は、実質的に越冬を終えてから最初の内検なので、冬の間の対応の反省もあるのだろうが、純一さんの気持ちは、女王蜂を誕生させて蜂分けをし、群数を増やすなど採蜜期の対策をしなければならない春に向けての期待が先行しているようだ。
iPadに卒園式の報告をしてきた孫と会話を交わす珠江さん
「春になって蜂が増えていくのを見ていると、何か良い感じ……」と珠江さんが話していたのを思い出した。又、純一さんも「春の蜂がみるみる増えていくのを見たり、蜜が思っていた以上に採れるのを体験したりすると、蜂屋に対して小さい頃とは違った印象を持つようになりましたね」と話していた。養蜂家が待ち焦がれていた命の輝く春がもう目の前まで来ている。
取材を終えて福江島を離れる時、福岡空港行きのプロペラ機に搭乗するため空港ターミナルから飛行機までの地上通路を歩いていると、突然、携帯電話が鳴った。発信者の名前を見ると、高見純一さんだ。何か問題があったのかと急いで電話に出てみると「見えますか。後ろ後ろ、フェンスの所です」と、純一さんの声。振り返って姿を探すと、空港の金網フェンスにへばり付くようにして純一さんと珠江さんが両手を大きく振って見送ってくれている。私も手を振って応えていると、空港の係員が「早く乗ってください」と、一人だけ滑走路に採り残された私を急かせる声がした。
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