水平に見てやると蜂は温和しい
大台さんは面布を着けず手袋もしない
HONEY.Kの蜂場は基本的に、専従の養蜂家大台典史(おおだい のりふみ)さん(52)が管理している。
「ぼく、植物が好きなんですよ。山登りが趣味で、山の木に興味があって、最初は林業関係の仕事に就きたいなと考えたんです。だけど、あんまり旅行をしたことがなかったんで、移動養蜂やったら全国に行けるやないかと思い付いて、年間で雇ってくれるところを探して鹿児島から北海道へ移動する養蜂場で働き始めたんです。それが35歳。それまでは画廊で10年働いたり、色々な仕事をしていましたね。北海道の移動養蜂場で10年間働いた後、長野県の定置の養蜂場で2年ほど、その後がHONEY.Kなんです。木村さんの会社に来て4年近くですかね、年間雇用だったので……。出身は大阪府なんです。たまに両親の顔を見に帰られるほど実家は近いんですよ。ここの上賀茂蜂場はええ蜜入るし、長く蜜が入るし、ええ蜂場です。朝の5時6時とかに蜂場に入ると、花の匂いが一番分かりますね。今日の内検は、これから本格的な採蜜期に入るので、蜂の善し悪しを見極めて採蜜群を選ぶことと、今はサクラ蜜が入っているので、もう咲き始めている藤の蜜が混じらんように、(サクラ蜜が溜まっている蜜巣板を)抜いていきたい時期なんです。HONEY.Kは、現場で蜜巣板の蜜の溜まり具合を見て抜くと、京北(けいほく)の工場に持ち帰って、その日の蜜をその日のうちに搾るんです。今年は、蜂が良いんじゃないかなぁ。この(巣箱の)列の蜂が伸びているんで……」
大台さんが上賀茂蜂場で内検を続ける
大台さんは、蜂の状態をしっかり見るために面布を着けないで作業をしている。当然のように素手での作業だ。素手で空巣(からす)を持って次亜塩素酸水を噴霧してから、抜いた蜜巣板の補充として継ぎ箱に追加している。
「(次亜塩素酸水は)最後は水に変わるというから安心やなあと思って、残ったら困るから……」
大台さんの内検は淡々を続けられていたが、ある巣板を持ち上げた時にふっと手が止まった。「この群の巣板には卵が無いのと変成王台が巣板の端ではない変な所に付いているので、何か変やなあと思っていたら、未交尾の女王(蜂)が居りましたわ。未交尾が居るんで、他の王台は潰します。この未交尾(の女王蜂)は形もええし、良いですね。この継ぎ箱に隔王板は使わないです。交尾を終えるまで継ぎ箱に産卵することはないので、今は女王蜂を自由にさせておいてやりたいんです。蜂というのは、上から覗き込むように見ると嫌がりますね。水平に見てやると蜂は温和しいです」
大台さんの言葉の端々に、同じ生物として蜂を大切にする気持ちが伝わってきた。
新緑が美しい広々とした井手蜂場で内検が続く
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