2025年(令和7年5月) 84号

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蜜蓋しなくても糖度は高い

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 話が横道に逸れてしまったが、大台さんが運転する2tトラックが京北工場に到着した時すでに辺りは闇。休むこともなく大台さんが、上賀茂蜂場から抜き取ったサクラ蜜の巣板を、遠心分離機が設置された作業場へ次々と運び入れる。さすがにJFS-B規格に適合しているだけあって、衛生管理が行き届いた真っ白な空間だ。

 大台さんが蜜巣板を運び込むと、すぐに蜜蓋を切って遠心分離機にセットしていく。しかし、ほとんどの蜜巣板は切るほどの蜜蓋はできていない。糖度は大丈夫なのかと、心配になってくる。大台さんに質問すると、「サクラ蜜は蜜蓋していなくても糖度は高いので、蜜蓋ができるまで待たないで搾るんですよね」と、気にしている様子はない。私は半信半疑だ。遠心分離機を2度ほど回した後で、搾ったサクラ蜜を糖度計で測ってもらうと、何と80.8度もあった。大台さんは「ほらね」といった表情だ。続いて「アカシア蜜も水っぽいなという感じでも、糖度は高いんですよね。花蜜の糖度が高いんですかね」と、教えてくれた。それが、あの透明感のあるアカシア蜜の理由かも知れない。糖度計を仕舞っている大台さんの手が気になった。蜂場では素手で仕事をしているのだから多少汚れているのは仕方がないとしても、蜜を搾る工場でも大台さんの掌は黒くひび割れたように黒い縦の筋が指の内側全体に付いている。何度かブラシを使って洗っていたのは見ていたのだが……。「軽石で擦っても落ちないんです。スーパーの支払いでは絶対に人のいるレジには並ばないんです。セルフの方に行くんです。手を見られるのが嫌だから」と大台さん。そこまで気にしているとは思わず、気軽に「手を見せて」と言ってしまって後悔した。

 午後9時前、大台さんが工場の片付けを終え、嬉しそうに私に教えてくれた。「今日の採蜜、100㎏を超えました」。工場の外は闇、空を見上げると満天の星空が広がっていた。

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