2025年(令和7年7月) 85号

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多くは都市部からの移住者

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 草むらに座り込んだ橋詰さんが私に話し掛ける。

 「(蜂が)トチには行ってない気がします。トチの花粉は赤いんですよ。(蜂が)持って帰ってくる花粉は黒いんですよ。何でしょうね。ただ、非常に多く集めていますね。フジは黄色なんですよね」

 結局、黒い花粉の正体は分からず仕舞いだったが、軽トラを3台連ねて鎌原蜂場を出発するとすぐ、畑の中に「鎌原のばあやん」の姿を見付けた。軽トラを停めて橋詰さんが「ばあやん」の傍に走り寄っていく。私も続いて走る。

 「養子に出たばあやんの長男が俺の父親。だから姓は違うけど、鎌原のばあやんは俺のばあやん。ばあやんはすごいよ。トウモロコシ1000本作るからな。うちの親父がガソリンスタンドをやっているんで、お客に配るんですよ」

 鎌原のばあやんこと宮崎スハノ(みやざき すはの)さん(93)は、突然のことで少々戸惑っているようだったが、後で、橋詰さんから注意された。「いきなり歳を聞かれて恥ずかしかったと言っていたよ」。確かに失礼なことをしてしまった。反省すると同時に、橋詰さんがスハノさんを愛(いと)おしむ気持ちが伝わった。

 昼食の後は、狩宿(かりやど)蜂場での内検だ。狩宿蜂場には7群の採蜜群。

 「何故か、ここに持ってくると、蜂が伸びる(数が増える)んですよね」と、橋詰さんが3段に積み上げた継ぎ箱に空巣を4枚入れている。

 橋詰さんはここでも山羊の蓬と一緒である。狩宿蜂場の内検は30分ほどで終わった。7群の内検に3人で30分は、ゆっくりの作業だ。決して急がない養蜂チームの仕事を見て思い当たるのは、橋詰さんの人生観と重ね合わせた養蜂哲学だ。自然に任せる。蜂の立場で考える。人間からの関与は最小限とする。言葉で橋詰さんから聞いた訳ではないが、仕事ぶりを見ていて、そう伝わってくる。

 橋詰さんと富岡さんは地元で生まれ育っている。しかし、有限会社きたもっくで働く社員約100人の多くは都市部からの移住者だという。打合せの時に橋詰さんが「生態系みたいに複雑」と言っていた組織は、縦型組織で経済合理性を求める働き方とは異なる人生観を持つ人びとの受け皿になっているようだ。「自然資源を価値に変える」をコンセプトに地元企業が目指す持続可能な自給経済圏を確立するための一翼を担う養蜂チームが果たす役割は大きい。

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