2025年(令和7年7月) 85号

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地球が終わっちゃいますよね

 唐突に、橋詰さんが私に尋ねる。「年に数回、心を鎮めるために行く大杉へ案内しても良いか」。「もちろん」と答える。軽トラは万座川沿いの林道をしばらく走った。「鳴尾の大杉、熊野神社大スギ、空海さんの杖から根が生えたと言っていますけど、それは真面(まとも)か分かんない」。道路脇の小さな駐車場に軽トラを停めて、獣道のような急坂を30歩ほど登ると、鳴尾の大杉の根元に辿り付いた。私が大杉を撮影している間、橋詰さんはすぐ傍らの杉の根元に座り込んで何を思索していたのか、ただ黙って待っていてくれた。

 鳴尾の大杉を見た後で万座川沿いの林道を引き返している時だった。橋詰さんが話し始める。

 「自分は一回、熊に引っかかれました。夏の暑い時期に目の前の藪が動いたと思ったら突然、熊が飛び出して襲ってきて、引っかかれて、押し倒されて……、50針くらい縫ったかな、指が折れて、頭の中も割れて……。熊はやたら居ますね」

 夕方まで橋詰さんの故郷ともいうべき地域を案内していただき、きたもっくキャンプ場の駐車場で軽トラから降りようとした時、橋詰さんが、これだけは言っておこうというように話し掛けた。

 「将来に対して悲観はしていないです。問題はあると思うけど……。何かの踏み台になれればと思っています。割と過去の失敗に学ぶ人たちが増えているんじゃないですか。良い感じにしていかないと、地球が終わっちゃいますよね」

 初対面の私に地球の未来を思い描き「踏み台になれれば」と言葉にする橋詰さんに感動しながらも、40歳を過ぎてなお保つその純粋さに少しの戸惑いを感じたのも事実だ。

 翌朝、再び、橋詰さんの軽トラに同乗させてもらって「轟さんちの蜂場」へ向かった。

 群馬県東吾妻町大戸地区、標高は約700mの「轟さんちの蜂場」に到着したのは、午前8時半頃。

 「ここに引っ越して(巣箱を移動して)きて4日目、今年は花が遅くて、今、フジ(の花が流蜜期)なんで2回採蜜できればと思います。フジで1回、アカシアで1回。巣枠に駒は打ってなくて、移動の時は上(継ぎ箱)を(巣板の間隔を)12ミリ、下(単箱)は8ミリで移動しちゃいます。今年は(群数を増やすために)いっぱい巣礎を盛らせてあげようという計画で、どうしても蜜は減っちゃうんですけど……」。高崎市内から移動してきて最初の内検だ。

 私たちが到着した時にはもう、養蜂チームのスタッフ富岡真梨子(とみおか まりこ)さん(38)が内検を始めていた。「養蜂チームは来月で4年になりますね。最初は蜜搾りのバイトで入ったんで、蜂は3年目です」と自己紹介。傍で聞いていた橋詰さんが「俺が8年だから、あんまり変わらんのですよ」と、富岡さんを労(いたわ)るように言う。

 この日の内検は、フジ蜜が溜まっている蜜巣板を抜き出して代わりの巣板を補充すると共に、産卵は順調に行われているか、王台は出来ていないかなど通常の内検を行い、最後にラブレ菌の入った水を巣枠の上から噴霧している。燻煙器はまったく使っていない。

 「寒い時は煙、暑い時は水。暑い日に煙を掛けられたら(蜂は)嫌かなと思って……。毎日、ダニ(ミツバチヘギイタダニ)と闘っていますね。当てにしているのは乳酸菌と雄峰のダニトラップ(ダニを捕らえる罠)。その他に女王蜂を隔離して卵を産ませない状態にしておいて、シュウ酸を気化させる方法もあるけど……」

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