2025年(令和7年9月) 86号

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めんこい顔している

 蜂場の横に建てたビニールハウスの倉庫で少し休憩した後、越冬準備の内検を始めた。多くの巣箱は3段から4段になっているのに、継ぎ箱のままの群が幾つかあった。その中の一つを内検しながら、遠藤さんが説明する。

 「この群は、産卵の成績が悪い女王蜂なので、秋口には合同して女王蜂を入れ替えてやることにしているんです。卵は産んでいるんですけど、蜂数が増えていかないんですよね」

 この日午後からは竹鼻翔悟(たけはな しょうご)さん(39)が手伝いに来た。遠藤さんが以前勤めていた保線工事会社の同僚だ。「土曜、日曜の来られる時だけ手伝ってもらっている」と、遠藤さんが私に紹介してくれた。

 遠藤さんが、まだ養蜂初心者の竹鼻さんに伝えている。

 「蜂を飼うのに大事な事は、蜂を殺さねえこと。蜂は簡単に押し潰されてしまうから、蜂を殺してしまえば殺すほど、蜂が凶暴になるからな」

 巣箱の蓋を開けると、巣箱の縁に蜂がきれいに並んでこちらを見上げている。竹鼻さんが「めんこい顔している。ポヨポヨしている毛が可愛いっすね」と言えば、すかさず遠藤さんが「だろう」と得意顔だ。

 遠藤さんが巣箱から巣房一杯に蜜が溜まった蜜巣板を抜き出し、越冬の際に与える餌にするため保存用の巣箱へ持って行くよう傍らの竹鼻さんに渡すと、「重っ」と声が漏れる。

 遠藤さんが竹鼻さんを紹介する言葉に信頼度の高さが伝わる。「前の職場で20年余り一緒に仕事をしてきて、一緒に稼ぐんだったら彼とだなと思っているんです。器用だし気が利くし、抜群に信頼できる人材なんですよ」

 勤めている鉄道保線の仕事を辞めて養蜂の仕事を一緒にしようと、遠藤さんが竹鼻さんを口説いている。養蜂の魅力や具体的な条件も伝えているようだが、長年勤めてきた鉄道保線会社を辞めてまで養蜂の仕事に携わりたいのか、竹鼻さんは迷っているようだ。竹鼻さんには小学生の子どもが居る。決心が付きかねるのも分かるような気がする。

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