本当に美味しい物は売ってない
沼宮内の野原は秋の風情
翌朝も、竹鼻さんは盛岡市内から約1時間かけて遠藤さんの蜂場に出勤してきた。しかし、天候は下り坂。遠藤さんは「雨が降れば降るほどキノコは大きくなるんですよ。キノコにとっては恵みの雨」と、気持ちはすでにキノコ山へ飛んでいる。
「僕、マツタケはミシュランの2つ星3つ星の店に入っているんですよ。世の中に本当に美味しい物って売ってないですからね、自分で採ってこないと……。マツタケの鮮度、味、香り、触った時の硬さ、虫害なし、いま山から採ってきたのかという美しさ、それが揃って本当に美味しい物なんですよ。これから雨が降れば、明日の夜明けに山へ行きますよ」
昨日の続きの内検を1時間ほどで終えると、午後から遠藤さんは11月の猟期に向けて射撃場でライフル銃の試射をすると言う。
産卵は続いているか、餌は足りているかを確認する
「僕のやっていることは趣味の延長ですから、好きなことをやっているから疲れないんですよ。自由が一番」と、ネクタイ族からは羨ましがられ、世の権力者たちからは顰蹙(ひんしゅく)を買いそうなことを正直に言う遠藤卓弥という男こそ、権威におもねない根っからの自然児なのだと思わせる。しかし、その背後に師匠のところで発揮した我武者羅な努力があったことを忘れてはならない。それともう一つ、勤めを辞めて養蜂をやりたいと遠藤さんが言った時、「あんたならできると思うよ」と夫の可能性を只一人信じた妻知佳さんの揺るぎない信頼を忘れることはできない。
自宅玄関で私を見送る遠藤さんと妻の知佳さん
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