これで飯が食える幸せ
働き蜂が巣板の上に被せてあった麻布をほぐして巣箱の外に運び出した
竹鼻さんが代用花粉のパックを半分に切って巣枠の上に置くと、一斉に蜂が群がりプレミアムと呼ぶ代用花粉をむさぼり食べる。その一途な姿が健気で愛おしい。そんな蜂の姿を見て「これで飯が食えるって、幸せですね」と、竹鼻さんがふっと呟く。すると遠藤さんがすかさず「幸せに見えるだろ、幸せなんだよ」と、ちょっと自慢顔。その表情に「だから、一緒にやろうよ」という言葉にならない呼び掛けの気持ちがひしひしと伝わる。遠藤さんには、一人で養蜂を行うことの大変さが身に沁みているのだ。
越冬に向けての内検を終えると巣板に次亜塩素酸水を噴霧する
「今、60群、これ以上増やさないです。一人では60群が限界。サクラの咲き始めが4月20日なんで、サクラ(蜜)が入った百花(蜜)を5月に採って、5月10日頃のリンゴ(蜜)も採ろうと思えば巣箱をリンゴ園に持って行けば採れるんですけど、今年はやめましたね。5月の百花蜜を搾ったら、次はトチなんです。続いてアカシアを2回採るんですけど、2回目の終わりがけに野バラが入るんですよ。アカシアに野バラが混ざらないようにするために2回目のアカシアを搾るタイミングが難しいんです。野バラが終わったら、ちょっと空きますけどウルシが入るんです。このウルシの蜜が抜群に良いんですよ。冬を越した百花蜜と春の新しい百花蜜が一緒になった百花蜜が美味しいんですよ。お客さんから『すごいね、この蜂蜜。この蜂蜜を食べると蜂蜜の概念が変わるね』と言われたことがあって、その隠し味がウルシなんですよね。蜂数が一番多い時は巣箱を6段まで積みましたもんね。けど、蜂が疲れているなと思えるんです。巣礎を盛るのは盛るんですけど……。一番すごいのは5群でアカシアを10缶搾りましたからね。僕は何にも技術はなくて、蜂が勝手に働いてくれるんですけどね」
巣門近くで立ち止まる蜜蜂
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