2026年(令和8年9月) 91号

発行所:株式会社 山田養蜂場  https://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

6

これだけは言っておきたい

 草払いを終えると、鈴木さんが吹き出した汗を拭おうともせずに話し始めた。

 「僕の養蜂は、蜜蜂の本能を阻害しない養蜂なんです。分封を止めないのもそうですし、巣礎を使わないで自然巣で巣を作らせるのは、そのためなんです。Top bar beekeeping(トップバー ビーキーピング)という養蜂技術の一つなんですけど、蜜蜂は巣礎を求めていないですよ。巣礎は働き蜂(雌蜂)を産ませるための径になっていますけど、自然巣だと5月なんて面白いように雄蜂になりますよ。それだけ自然界では雄が求められている季節なんです。だからうちの女王蜂は交尾率がものすごく高いですよ。それに巣礎を作るのに使う蜜ロウは溶かして何度も使ううちにダニ剤などの薬が溶け込んでいますから、これが蜜蜂の寿命を縮めているのではないかと考えているんです。色々な形で巣箱の中で情報交換をしている蜜蜂にとって、巣礎があることはハニカム構造の真ん中にコンクリートの壁があるのと同じなんです。巣礎が蜂同士のコミュニケーションの障壁になっているんです」

 「もう一つは、市場原理ではなく、人間の営みとして養蜂があって、それで生活が成り立っていく養蜂でありたいんですけど、今の時代、どうしてもお金で価値を判断してしまいますからね。難しいんです。英語で養蜂はbee keepingと言いますよね。つまり蜜蜂を維持するのが養蜂で、その結果として蜂蜜があるんですね。日本語の辞書で養蜂を引くと、蜜や蝋を採るために蜜蜂を飼うこととあるんです。日本では蜂蜜や蜜ロウを採ることを目的として蜜蜂を飼うことが養蜂なので、人間と蜜蜂の関係性はずいぶん違います。環境さえ整えれば蜜蜂は自分たちで生きていってくれるんです。人間の意志とは関係なく生きているんですよ。僕は何もやっていないんです」

 鈴木さんは、これだけは言っておかなければというように、一気に話を続けた。3日間の取材期間中に伺った話と重複する内容ではあったが、鈴木さんが実践する、もしくは目指す「蜜蜂の本能を阻害しない」養蜂と日本の近代養蜂との落差に、彼は埋めようのない疎外感を感じていると思えた。鈴木さんは「外国の先進的な養蜂情報が入ってきていない」と嘆く。しかし、私はこの差は蜜蜂に向かい合う哲学の違いだと思った。1877(明治10)年にアメリカから輸入されたセイヨウミツバチの飼育から始まった我が国の近代養蜂は、蜂蜜を採るために蜜蜂を合理的に飼育する技術を積み重ねて発展してきた。一方、鈴木さんが目指す「本能を阻害しない」養蜂は、それと対極にあるように思える。例えば、「羽音に聴く」36号で紹介した長崎県対馬市のニホンミツバチを飼う人々の考え方に近いのかも知れない。鈴木さんには、経済優先ではなく人生を豊かさへ導く養蜂の道を探り続けて欲しいと願って房総半島を後にした。

1
6
2
3
4
5

▶この記事に関するご意見ご感想をお聞かせ下さい

Supported by 山田養蜂場

 

Photography& Copyright:Akutagawa Jin

Design:Hagiwara Hironori

Proofreading:Hashiguchi Junichi

WebDesign:Pawanavi