2014年(平成26年)8月・創刊号

発行所:株式会社 山田養蜂場  http://www.3838.com/

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北海道深川市多度志 永田養蜂場

夏の北海道には珍しく長雨が続いた後の夕刻、ソバ畑の上空は燃えるような夕焼けが広がった

雨続きだった北海道に、晴れの兆しがようやく見えてきた。丘に広がるソバ畑の上空は、燃えるような夕焼けである。明日の採蜜は、雨の心配をしなくてよさそうだ。

深い霧が立ちこめる国道275号線を、ブルーシートで荷台を覆った2トントラックと大型四輪駆動車が、ヘッドライトを点けて時速80キロで駆け抜ける。夏の朝5時過ぎだ。カーブでもないのに突然、トラックがセンターラインを大きくはみ出した。後に続く四駆の運転席から、道路脇の茂みに消えるエゾシカの白い尻が一瞬見えた。5、6頭の群れだ。

 

 

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    幌加内(ほろかない)町で国道275号線から239号線へ入る。「日本で一番寒い所、氷点下42℃の記録がありますから。幻の魚といわれるイトウがいる朱鞠内(しゅまりない)湖の手前です」と、昨日、永田美穂さん(70)が養蜂箱の置いてある場所を説明していたのを思い出した。239号線をこのまま走れば、オロロン鳥やウミウで名高い天売島(てうりとう)や焼尻島(やぎしりとう)が浮かぶ日本海に出るはずだ。永田養蜂場が夏の養蜂拠点としている北海道深川市多度志の自宅を午前5時に出発し、ちょうど1時間。幌加内町添牛内(そえうしない)の国有林にある養蜂場に到着した。この日、永田龍正さん(74)の経営する永田養蜂場が、ここで10日ぶりの採蜜を行うのだ。

    養蜂場に到着すると、麻布に火を点けて燻煙器を

    準備する

    幌加内町の国有林に入る林道を永田さんのトラックが行く

    盗蜂を避けるため、ネットを張って採蜜の作業を続ける

    国道から林道に入ったとたん、運転席は道の両側から笹と木立に覆われ、前を行くトラックのテールランプしか見えない。しばらく林道を進むと、永田さんが運転席から降りて、トラックの前へ行った。「どうしたのか」と思った瞬間、パンパンパンパンと木立の中に爆竹が鳴り響いた。熊除けだ。

    「念のためにですね。アライグマが養蜂箱の上に座っていたことがありますから。さっき道路に鹿が出たろ。あれ危なかったよ。道路の真ん中で止まるんだもんね」と、トラックを運転していた龍正さん。

     

    茂みを切り拓いた木立の一角に、養蜂箱30箱ほどが整然と並んでいる。トラックを乗り入れると、一斉に採蜜の準備に掛かった。熊や鹿の侵入を防ぐため養蜂場を囲んでいる電柵5000ボルトの電源を切り、入り口近くに遠心分離器(採蜜器)を据え付ける。板垣春男さん(67)が、養蜂箱の蓋を開けて巣穴に溜まった蜂蜜の状態を、ゆっくりとした動作で点検して歩く。蓋を開けた養蜂箱の上に、クレゾールの匂いがする麻布を被せていく。「蜜蜂はこの匂いを嫌がるので、しばらくすると皆、下の方へ移動して作業がし易くなるんですよ」。

    まとわりつく蜜蜂を刺激しないよう、優しくハチブラシで払って、蜂蜜の溜まった巣板をひと箱分ずつ一輪車で運ぶのは、菊地慶晃さん(70)だ。美穂さんが蜜の溜まった巣穴を塞いでいる蜜蓋(みつぶた)を包丁で削り落とし、遠心分離器にセットする。スイッチを入れると、分離器の下からねっとりとした蜂蜜がたっぷたっぷと湧き出すように出てきた。

    「巣穴には少し角度が付いていて、逆さに入れると分離器に掛けても蜜は出ないんですよ。蜜蜂が運んできたばかりの蜜は水みたいなものだから、角度がないと巣の中でこぼれますからね。蜜蜂は、その蜜を羽で煽いで水分を飛ばし、糖度を高くするんです。これで大丈夫と思ったら、巣穴を蜜ロウで塞いで越冬の準備完了です」

    板垣さんは、以前、トラックの運転手をしていた。その頃から永田さんの家に立ち寄っては蜜蜂の話を聞いて、養蜂に関心を持っていたそうだ。定年退職した後は、自分でも蜜蜂を飼い始め、採蜜の時には永田さんの仕事を手伝いに来ている蜜蜂通である。

    採蜜が終わり、ネットから遠心分離器を運び出す

    遠心分離器で絞ったアザミ蜜

    巣板の蜜の状態を点検する

    休憩する間も話題は蜜蜂のこと

    遠心分離器で絞った蜂蜜をバケツで受けて、濾過器に運んでいた龍正さんに、蜜蜂がまとわりついている。蜂蜜を濾過器に入れながら、「これはアザミだ。黄色い。糖度があり過ぎるよ。これだったら糖度が79〜80度だね」。永田さんが呟く。しばらく雨が続いたため、蜜蜂が活動できず、新しい蜜が入ってないのかも知れない。蜜蜂が羽で煽いで濃縮させたアザミの蜂蜜なのだ。周りを見ると、盛りを過ぎた紫色のアザミがうつむいて咲いている。北海道のアザミは、背丈が1〜2メートルも伸び、茎にトゲがないチシマアザミという種だ。

    蜜蓋を削り落としている美穂さんにも、蜜蜂がまとわりついている。美穂さんが、しきりに燻煙器で蜜蜂を追い払おうとしているが、盗蜂(とうばち)が寄って来るのだ。

     

    「花が終わって、蜜が無いんだ。だから、寄って来るんだわ」。花の蜜が少なくなったため、採蜜作業中の蜜を吸いに来る蜜蜂を、人間の都合で盗蜂と呼んでいるのだ。「本当は、こっちがいただいてんだもん」と、龍正さん。「去年も同じ日に、ここに来たんだよ。今年は、一週間か10日ほど花が早いんだね。ここ2、3年ネット張ったことないもんね。今日は特別に(盗蜂が)多いね」。ネットを張って、その中で採蜜作業をすることになった。ネットの周りを飛び回る蜜蜂が、その中で蜂蜜を採る人間を取り囲んで、抗議しているような光景になってしまった。

    巣板にまとわりつく蜂をハチブラシで優しく払う

    分封する準備のためにできた女王蜂の居る王台

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